1. 迫りくる「補助金申請」の期限と3つの選択肢
IT導入補助金の申請を行うにあたり、最初のハードルとなったのが「見積書」の取得でした。 当然ながら、費用援助を受けるには具体的な概算が必要です。しかし、要件定義(どのようなシステムを作るか)も定まっていない段階で、正確な費用を算出するのは至難の業でした。
そこで私たちは、販売管理システムの調達方針として、以下の3つのアプローチを並行して検討することにしました。
- スクラッチ開発(受託開発): 開発ベンダーに依頼し、独自のシステムを一から構築する。
- パッケージ導入: 市販の販売管理パッケージソフトを購入・カスタマイズする。
- 内製化(自社開発): Microsoft Access等のデータベースソフトを用い、インフラ(サーバー)も含めて自社で構築する。
当時は「データベース」や「サーバー」といった用語を、なんとなく見積もり項目の一つとして認識している程度のITリテラシーでした。本命は「1」か「2」であり、「3」の内製化は、万が一の際のバックアッププラン程度に考えていました。
2. パッケージソフトの限界と「業務適合率」の壁
まずは、コストパフォーマンスに優れる「2. パッケージ導入」の検討から着手しました。 約10社の製品を比較検討し、最有力候補として挙がったのが、柔軟なカスタマイズ性で定評のある『アラジンオフィス』でした。
PCごと実機を貸し出してくれる手厚いベンダー対応や、網羅的な機能マニュアルには感銘を受けましたが、検証を進めるにつれ、**「当社の業務プロセスとのギャップ(Fit & Gap)」**が浮き彫りになりました。
決定的な不適合要因:複雑なサプライチェーン管理
当社の業務における最大の特異点は「仕入・外注管理」にあります。
- 多段階の工程管理: 1つの製品に対し、「切削加工(A社)」→「防錆処理(B社)」といった多段階(最大4次)の工程が存在し、それぞれの在庫・進捗管理が必要。
- 変動単価(ボリュームディスカウント): 受発注数量に応じた単価マトリクスが複雑で、単純なマスター管理では対応できない。
これらをパッケージソフトで実現しようとすれば、工程の数だけ商品マスターを作成するなどの無理な運用が必要となり、現場の負担増は明らかでした。「パッケージに合わせて業務フローを変える」か「Excelでの二重管理を残す」か——この二択を迫られ、パッケージ導入は断念せざるをえませんでした。
3. ベンダー開発の難関:「ドメイン知識」の非対称性
並行して進めていた「1. スクラッチ開発」の検討では、**「コミュニケーションの壁」**に直面しました。
- 当社(発注側): システム開発の知識や用語を知らない。
- ベンダー(受注側): 当社の業界特有の商習慣や業務フロー(ドメイン知識)を知らない。
この両者の間で、満足のいく仕様を策定するのは、「どんな髪型にしたいか説明できない客が、ヘアカタログもなしに美容師にお任せする」ようなものでした。 業務マニュアルが完備されている大企業ならいざ知らず、職人の暗黙知で回っている中小・零細企業において、外部ベンダーに正確な要件を伝えること自体が、極めて難易度の高いタスクだったのです。
4. コストの衝撃と「ベンダーロックイン」への懸念
コミュニケーションに苦労しながらも、なんとか仕様を固めて提示された見積額は、まさに**「高級車や高級外車が買えるレベル」**。 さらに、導入後のサーバー保守費用や、将来的なOSアップデート、業務変更に伴う改修費用(ランニングコスト)を考慮すると、その総額は計り知れません。
「完成形が見えないものに、これだけの巨額投資をして良いのか?」
親身に対応してくれたベンダー(P社)には感謝しつつも、このまま進めば将来にわたって外部ベンダーに依存し続ける**「ベンダーロックイン」**の状態になり、システムの寿命(ライフサイクル)が来るたびに高額なリプレイス費用が発生するのではないか……そんな疑心暗鬼に陥りました。
5. 苦渋の決断、そして「第3の道」へ
時間がない中でP社の見積もりを使って補助金審査は通過したものの、詳細仕様の詰めに入ると、通常業務と並行してのミーティングは限界に達していました。 「自分たちの業務すらまともに説明できない状態で、短期間に本当に使えるシステムが完成するのか?」
自社(自分たち)のIT対応力への不安と、外部任せにすることへの危機感。 これらが重なり、私たちはついに、当初は「最小限の案」としていた**「第3の道:自社開発(内製化)」**の可能性へと、大きく舵を切ることになるのです。
(次回へ続く)
【編集協力】 このプロジェクト記録の文章表現は、Gemini(Google AI)による構成案の作成および校正支援を受けています。