Vol.5 ~機材導入と「意識改革」の先行投資~  

1. 調達完了、そして「アプリなきiPad」の配布

補助金申請の通過を受け、直ちに機材の発注を行いました。 FileMakerのライセンスを正規版へ切り替え、サーバーソフトウェアをダウンロード。そして数日後、待望のiPad 5台が到着しました。

この時点で、肝心の販売管理システムはまだ影も形もありません。しかし、私はキッティング(初期設定)を済ませたiPadを、即座に全社員へ配布しました。 これには、システム実装よりも重要な、ある「狙い」がありました。

2. DXの土台作り:「習うより慣れろ」のITリテラシー教育

最大の狙いは、**「デジタル・ディバイド(情報格差)の解消」**です。 普段IT機器に馴染みのない社員や、Apple製品に触れたことのないスタッフに対し、まずはデバイスそのものへの心理的ハードルを下げてもらう必要がありました。

  • 業務利用: 地図アプリやメール連絡などの基本操作に慣れてもらう。
  • 私的利用の解禁: 自宅への持ち帰りを許可し、動画視聴やゲームなど、プライベートでの利用も推奨。

「会社支給のデバイスで遊ぶなんて!」と思われるかもしれませんが、これは**「デバイスを身体の一部のように扱ってもらう」**ための最短ルートです。 予想通り、若手社員は自宅でYouTubeやゲームを楽しみ、またたく間に操作をマスターしていきました。肌身離さず持ち歩く「相棒」としてiPadが定着することこそが、後のシステム定着率を左右する重要なファクターだったのです。

3. セキュリティポリシー:「性悪説」より「環境整備」

デバイス管理において議論になるのが、MDM(モバイルデバイス管理)ツールなどで機能をガチガチに制限すべきか否か、という点です。

私はあえて**「制限なし(COPE:Corporate-Owned, Personally-Enabled)」の運用を選択しました。 もちろん、スクリーンショットによるデータ持ち出しなどのリスクはゼロではありません。しかし、どれほど厳重なロックを掛けても、悪意(モラルハザード)を持った人間を完全に防ぐことは不可能です。 機密情報を扱う大企業ならいざ知らず、BtoB主体の小規模な当社において重要なのは、過剰な監視で社員を萎縮させることではなく、「不正をする必要がない(待遇や環境に不満がない)健全な職場環境」**を作ることだと判断しました。

4. Windowsユーザーを襲う「Macの洗礼」とサーバー構築

一方、インフラ構築の現場では、私が**「Macの流儀」**に翻弄されていました。 Windows一筋だった私にとって、Mac miniの操作感や、UNIXベース特有の「ファイル権限(パーミッション)」の概念は未知の領域。単純なファイル移動でさえ、アクセス権のエラーで弾かれるなど、予想外の苦戦を強いられました。

それでもなんとかFileMaker Serverのインストールを完遂し、計画通り2台のサーバー環境を構築しました。

  • Primary Server(本番機): システム稼働用。
  • Secondary Server(開発・検証機): テストおよびバックアップ用。

誤操作を防ぐため、デスクトップの壁紙を明確に色分けし、**「本番環境」と「ステージング環境」**を視覚的に区別する運用ルールも策定しました。

5. いよいよ開発開始:UI/UXとアクセス制御の実装

環境が整い、ついにアプリケーション開発に着手しました。 最初に実装したのは、ユーザビリティとセキュリティを両立させるための**「入り口(メニュー画面)」**の設計です。

  • ロールベースのUI設計: 「販売管理メニュー(事務向け)」と「アセンブリ業務メニュー(現場向け)」を分離し、ログインする部署によって最適な画面が初期表示されるように設定。
  • 端末認証によるアクセス制御: FileMakerの関数を利用し、接続元の端末名やユーザー情報を識別。許可された社内端末以外からのアクセスを遮断するロジックを組み込みました。

iPadの画面上で、自分が作ったメニューが動き、サーバーと通信している——。 「自社サーバーを持っている」という事実は、クラウド全盛の時代にあっても、エンジニア(自称)としての所有欲を満たすに十分でした。 **「うちはIT化された企業だ」**という心地よい自己満足を燃料に、いよいよ本格的な機能開発という「沼」へ足を踏み入れていきます。

(次回へ続く)

【編集協力】 このプロジェクト記録の文章表現は、Gemini(Google AI)による構成案の作成および校正支援を受けています。

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