
1. パッケージソフトの限界:「工程管理」の罠
マスタ登録と発注機能が軌道に乗り、次なる課題は**「在庫管理機能」**の実装です。 ここで、当初検討していたパッケージソフト導入時にもネックとなっていた、当社特有の課題が立ちはだかりました。
「多工程製品(金属加工+アルマイト処理など)を、どうシステム上で管理するか?」
一般的なパッケージベンダーの回答はこうでした。 「工程ごとに別の商品マスタを作成してください(例:部品A-加工前、部品A-メッキ後…)」 しかし、実務において1つの部品で複数のマスタコードを使い分ける運用は、現場の混乱を招くだけです。 「マスタは1部品につき1つ」——この原則を崩さずに、どうやって工程の進捗と完成在庫を管理するか。ここが最大の悩みどころでした。
2. 現場を知る強み:コロンブスの卵的発想「最終工程トリガー」
ここで活きたのが、**「システム開発者が、実務担当者でもある」**という当社の強みです。 現場の業務フローを脳内でシミュレーションした結果、あるシンプルな事実に気づきました。
- 削り出し部品が入荷しても、すぐに全量を防錆処理(アルマイト)業者へ出す。
- つまり、「途中工程で在庫として滞留することは、ほぼあり得ない」。
- ならば、**「最終工程(アルマイト)から戻ってきた瞬間だけを『在庫』としてカウントすればいい」**のではないか?
この発想に基づき、以下のロジックを実装しました。
- マスタ統合: あくまでマスタは1つ。
- 在庫計上フラグ: 台帳上の仕入先設定に「在庫計上対象」というチェックボックスを設ける。
- 自動判定: その業者からの仕入入力時のみ、システム内部で「在庫計上」というフラグ(文字)を付与し、その分だけを実在庫として加算する。
3. 初心者でもできる「IF関数」の魔法
技術的な実装は驚くほどシンプルです。FileMakerの高度な機能ではなく、Excelでもお馴染みの**「IF関数」**を組み合わせただけ。 「もし仕入先が対象業者なら、在庫数を足す」。たったこれだけで、複雑な工程管理システムを回避し、実務に即した在庫管理を実現しました。
さらに、例外処理(あえて在庫にしたくない場合など)も考慮し、フラグの文字を手動で消せば計算対象外になるという**「アナログな柔軟性」**も残しました。 履歴リスト上では、在庫計上された行だけが黄色くハイライトされ、一目で入出庫の流れが追えるUX(ユーザー体験)も実装。初心者の私でも、苦労なく構築できました。
4. 「開発者=ユーザー」という最強の環境
この機能実装を通じて、内製化(自社開発)の最大のメリットを痛感しました。 もしこれを外部ベンダーに依頼していたらどうなっていたでしょう? 「独特な商習慣の説明」に膨大な時間を費やし、誤解が生じれば追加修正費用が発生し、現場の意見をまとめる会議で疲弊する……そんな泥沼が見えています。
「業務を熟知した人間が、即断即決で仕様を決め、実装する」 このスピード感と柔軟性こそが、中小企業DXにおける最強の武器です。 「会議室で決めた仕様」ではなく、「現場の最適解」をダイレクトにシステムに反映できる。これこそが、使いやすいシステムが生まれる源泉なのです。
5. 信頼がもたらす変革:棚卸業務の簡素化
在庫管理システムが稼働し、リアルタイムでの在庫把握が可能になったことで、現場業務にも劇的な変化が訪れました。 これまで半年に1回、全社員総出で行っていた**「棚卸(たなおろし)」の負担軽減**です。
iPadや現場PCを活用し、入出庫のたびにリアルタイム入力を行う(データの鮮度を保つ)文化が定着した結果、システム上の「計算在庫」と「実在庫」の差異が激減しました。 経営者もこの精度を信頼するようになり、棚卸は「年1回」へ。さらに作業内容も「一から数える」のではなく**「システム上の数字と照合するだけ」**へと簡素化されました。
「システムに正しく入力すれば、あの辛い棚卸が楽になる」 この具体的なメリット(インセンティブ)が、社員のシステム活用へのモチベーションをさらに高める好循環を生み出しています。
(続く)
【編集協力】 このプロジェクト記録の文章表現は、Gemini(Google AI)による構成案の作成および校正支援を受けています。